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キーワード 原子核理論、核構造、 相対論的エネルギー密度汎函数(REDF)理論、場の量子論、 自己無撞着平均場、準粒子乱雑位相近似(QRPA)、時間依存量子多体系、開放量子系、 核子ペアリング相関。 以下、過去に従事してきた研究、プロジェクト等を簡単に紹介します。 1. 相対論的エネルギー密度汎函数(REDF)理論と磁気双極子(M1)励起への応用 背景: ●M1励起は磁場によって引き起こされる集団励起モードである。基本的な観測可能量であるばかりでなく、 スピン・軌道順位分裂、相対論的残留相互作用、核子クーパー対相関と密接な関連がある。●多彩な励起現象を 網羅的に説明できる理論を打ち立てることは、原子核物理学の重要課題の一つである。現在、このような一般理論と なり得る有力候補の一つが、相対論的エネルギー密度汎関数(REDF)理論である。 目的と方法: REDF理論に準拠したM1励起の系統的解析と、相対論的な擬ベクトル型残留相互作用の評価を行った。 REDF理論はフェルミオン(核子)といくつかのボソン(中間子)を含んだ有効量子場の理論であり、非摂動的な 相互作用を含む。M1励起強度の計算には、相対論的な自己無撞着Hartree-Bogoliubov計算および準粒子乱雑位相近似 (QRPA)を利用した。 結論・インパクト: ●REDF理論がM1励起エネルギーの実験結果を良く再現できることが確認された。今後は 通常のQRPAレベルを超えた複雑配位などの影響も考慮した精密解析が期待される。●M1励起は擬ベクトル型の 残留相互作用の影響を強く受ける。これはパイ中間子交換に由来する相互作用であり、従ってM1励起とパイ中間子の 性質は密接に関連していることが明らかとなった。将来M1励起の精密実験データが出揃えば、核子-パイ中間子の 結合等に関して、更なる解明が期待される。●開殻核では対相関の影響も顕著であることが示された。特にM1和則が 核子クーパー対の合成スピンに顕著に依存することを、数学的議論と数値計算の双方から証明した。 ●核子クーパー対には合成スピン0と1の二通りのモードが許されているが、原子核内部において真に支配的なのはどちらのモードなのかを、M1励起の実験データから判定できることが示唆された。現在進行中の研究では、既存のM1実験データとの照合から、合成スピンを0とする対相関モデルの方が正しいことが予想されている。●以上の成果は申請者が現職(2018年9月~現在)に着任中に達成された。 2. Skyrmeエネルギー密度汎函数(EDF)理論に基づいた巨大電気双極子(E1)共鳴の解析 背景: Skyrme-QRPAは原子核の集団励起現象を系統的・効率的に計算することに威力を発揮してきた。行列型QRPA計算では、励起状態はQRPA行列を対角化して解かれる。その次元数は使用される基底数に応じて決まるが、特に変形している中重核の場合は、必要な基底および次元数が爆発的に増大し、QRPA行列の計算と対角化が困難であった。この問題に対する解決策の一つがFinite-Amplitude Method(FAM)である。 目的と方法: 軸対称変形を含んだ希土類核種の巨大E1共鳴を解析し、Skyrme-EDFの再現能力を評価する。この目的のため、Skyrme-EDFに準拠した自己無撞着平均場計算にFAM-QRPAを実装した。 結論・インパクト: ●従来の行列QRPAでは困難であった、変形核種の巨大共鳴の系統的解析が実現した。スーパーコンピューターを利用した並列計算により、希土類核種の巨大共鳴を評価した。●巨大共鳴の周波数と、アイソベクトル型の有効質量との相関について、詳細な議論が行われた。有効質量は核物質の状態方程式と密接に関連しているが、計算結果と実験データとの照合から、Skyrme-EDFによる予言値が適切であることが示唆された。●計算された光吸収断面積は、多くの核種で、実験データとの良い一致が得られた。その一方、いくつかの核種では計算結果が実験値を過小評価しており、さらなる発展の必要性も明らかとなった。 3. 時間発展描像に準拠した二陽子放出崩壊 背景: ●量子力学的な時間発展計算は、原子核の多彩な動力学的プロセスを理解するために有効な方法である。 二陽子(2p)放出崩壊はそれらのプロセスの一種であり、その解明は、核子対相関や多自由度量子トンネル効果に関して、重要な知見を提供することが期待されている。●真空中では2中性子あるいは2陽子は束縛しない。しかし原子核内部においては、この束縛系“dinucleon”に類似した構造(合成スピン0)が示唆されている(dinucleon相関)。この相関は非束縛・連続状態における核子クーパー対とも言え、2p放出過程の初期においても実現している可能性がある。 目的と方法: 2p放出崩壊における多粒子トンネル効果やdiproton相関の影響を議論する。この目的のため、崩壊プロセスを再現する時間依存量子三体モデルを開発した(親核+陽子+陽子)。 結論・インパクト: ●時間依存モデルにより、2p放出崩壊を直観的に議論することが可能となった。 ●2p放出のトンネル確率は、陽子間のペアリング相関によって顕著に左右される。ペアリング相関は引力である核力を起源としており、 これにより、放出崩壊確率はペアリング相関を無視した場合に比べて、強く抑制される。 ●引力的ペアリング相関により、陽子単体での放出はエネルギー的に抑制され、二つの陽子は同時・同一方向に 放出される確率が高くなる(true two-proton decay)。このtrue two-proton decayの過程では、合成スピン0の diproton的配位が支配的となる。●以上の成果は、原子核内部におけるペアリング相互作用と、2p放出崩壊の 相関を明確に示しており、いくつかの国際的な招待講演等でも評価を受けた(研究業績リスト参照)。 |
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